平家物語男社会の中で、ぎりぎりの人生を生きることを余儀なくされた女性たちの生きざまを連続して紹介しています。


第四回
小督
(おごう)


〜命を賭けた恋物語〜


  小督は高倉天皇(健礼門院徳氏の夫、安徳天皇の父)に愛された女性としてその名がよく知られている。平家興亡の歴史の中では本筋との関わりが薄いが、その描かれ方が非常にロマンティックで音楽的要素や美術的要素が豊富なことから、謡曲や大和絵の題材としても親しまれている。おそらく彼女の哀しい運命が時代を経てもなお人々の心を強く捉えたからであろう。

彼女は清盛の娘中宮徳子に仕えた女房であり、 小督と呼ばれたのは父の当時の役職「左兵衛督(さひょうえのかみ)」からだといわれている。父の藤原成範は清盛の婿の一人であり、更に祖父の藤原信西は保元・平治の乱の登場人物として様々に清盛に関わっており、彼女の家と平清盛との関係は元々微妙なものであったと思われる。

 小督は桜町中納言と呼ばれてた藤原成範の娘で宮中一の美女でしかも琴の名手であった。中宮徳子は高倉帝をお慰めするために彼女を参上させるが、実は以前から小督は冷泉大納言藤原隆房(清盛の婿の一人)の恋人でもあった。高倉帝の小督に対する寵愛ぶりは一通りでなく、婿二人をとらえた清盛の怒りをかって小督の立場難しくなる。小督は我が身のことよりも帝に累の及ぶのを案じて宮中からそっと姿を消したが、高倉帝の嘆きは耐え難きものであった。帝は側近の弾正仲国に命じて小督の行方を探し求めさせる。初秋の名月の夜の嵯峨野を小督を探してさまよう仲国にかすかに聞こえてきた琴の音、その極は’想夫恋’である。笛の名手でもあった仲国は小督の琴と合奏したこともあり、小督ならではの美しい音色を知っていたのである。彼女の居場所をつきとめて、大急ぎで宮中に馳せ戻る仲国の全力疾走シーンに続いて、再度の帝の命により小督をそっと宮中に迎え入れる臨場感溢れる場面展開。この名月の夜の仲国の「嵯峨野行」は平家物語の中でも大変美しいうっとりとした場面である。
 この高倉帝と小督の恋物語は「平家物語の女性達」(永井路子著)でも命を賭けた恋と書かれている。恋ゲームであったような貴族社会での身をはっての恋であった。その二人の間に姫宮が誕生して清盛の知るところとなり、小督は出家追放(23歳)、高倉帝は病の床について程なく 逝去 (21歳)という悲しい結末に至る。
 実はこの高倉帝と小督の姫宮誕生の時はまだ徳子は安徳天皇を産んでおらず、結構シビアな政治的瀬戸際(娘を天皇のお后にして、さらにその産んだ皇子が帝位について政治的地位を確固たるものにする以前の事) だったこともあり、平家の現実問題としてはそれなりに清盛にとっても大事件だったわけだ。

 軍記物に登場する女性の宿命としてはどうしても男性の添え物的存在になったり、男性の持つ美意識や男性の理想像的女性になることを否定できない。そのため女性の描かれ方については特に現代の女性から見れば不自然な点、不満な点も多いと思う。 が、そのような点や今回登場の小督の複雑な立場(彼女自身と彼女の家の平家との政治的な背景)を全部考慮した上でも、この短くも激しい高倉帝との恋物語は後世の人々に親しまれており、人が愛し合うことの喜びや哀しみがいつの世においてもどういう場合においても人々の心に感動を与えることを示していると思われる。


次回、お楽しみに。

 

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